<連載第1回>
「なんで来ちゃったの」


会社を辞め職安から給付金を頂くまでの3ヶ月間何しよー。海外でも行って見よっかなー。
実は、生まれてこのかた海の外なんて行ったことがなく、せいぜい四国程度。友達の旅行話に付いていけず、ウチって旅行に行けないほどビンボーな家庭だったのかと勝手に親を恨み、一度でいいから、一目でいいからとにかく行ってみたかった。
動機が単純な割に「ホントに行くの?」なんて言われたらムキになっていろいろ「旅」の勉強をはじめだし俄然行く気になっていた。もうここまで言いふらしたら後には引けず、前進あるのみ自分の意志とは関係なくイノシシのように白目をむいて走り回っていた。こうして人は成長していくのかと思うと悲しいが、呑気な私、ここまで追い込まないと動かないのも確かである。
「初めてなんだったらツアーにしとけば!」なんてOL嬢に言われたが、一人旅にこだわったのにも訳がある。まず、金が無い!けど、時間がある!こんな条件に似合うツアーがあるわけもなく、自然の成り行きといえばバックパッカーの道しか残されて無かった。悲しい現実だった。それと、よく言われているのが、その街に住んでみないとホントの良さは解らないってヤツ。外国人労働者になるつもりは無いが、少しでも地元住民の目線で旅ができれば、本当にその街の素顔の一面が垣間見れたら、それだけでいっか、程度でしか思っていなかった。
本当に楽しみなのか、そうでもないのか解らないまま、海外バックパッカー派ご用達の大韓航空機に乗り込んでいる自分がいた。

まわりは当然ながら韓国の人達ばかり。機内がキムチ臭いのは気のせいだろうか。
皆さん普通に話しているのでしょうが、いちいち声がでかく笑いながら喧嘩をしているようだった。そんな人達に囲まれて意味もなくひたすら怖かった。
隣はお金持ちそうな韓国人青年だったが、若き頃の仲代達也のようなキザな7:3わけで仲間と大声で話していた。気にもとめず外の景色を眺めていたら、たばこをくわえライターのジェスチャー。ライターを貸して欲しいのか、何度も借りられるのも面倒だなぁと、終わりかけの100円ライターをあげた。仲代青年はいたく喜び、ビールを注いでくれてごちそうになった。と、いっても両方とも元はタダ、言葉は通じなくともお金無くとも、日韓友好だなーと自分の中に日本人を感じていた。感じのいい仲代青年は空港の別れ間際、肩をポンと叩いて、何か言い残し去っていった。やはりキザだ。しかし嫌味気のないところがいいぞ仲代青年。
ソウルのキンポ空港でトランスファーで数時間待ち。外に出るほどでもなくロビーでごろ寝、さすがに徴兵制の国、軍用機やら若き兵隊らしき人がうろうろ、戦後の駅周辺ってこんな感じだったのかなー、とぼーっと見てたら、何言っているのかさっぱり解らない場内アナウンス。勘の虫が騒いで時間と場所を確認、この便でいいんだろうと、ほぼ勘だけで搭乗。この勘の虫に旅を通してずいぶん助けられることになるのだが本人は至って呑気、勘の虫の存在に気づくのはずいぶん後のことになる。
やっぱり機内は韓国の人ばかり、本当にロンドンに向かっているのかと本気で疑いチケットを見てしまう程だった。機内食を食べた後のトイレは韓国人で込むという「法則」を聞いたことを思いだした、本当かどうか配膳される途中で用をたしておいて、注意深く観察・・・。するまでもなく、食事後のトイレは込み合っている。
「やっぱそーなんだー」と、こんなことにも関心してしまう。一人旅はいいもんだ。
そんな光景(込み合っているトイレ)を何度か見ながらロンドンヒースロー空港に到着。

韓国人旅行一座に紛れて入国審査。イギリスロンドンの入国審査は特に厳しいという話はすでに周知のこと、下手をするとそのまま帰国させられるというケースもあるらしい。それだけ不法外国人労働者が多く、事件も多いようだ。当初は狙いだったはずの、品粗な格好をしていれば追い剥ぎに会わないというセオリーが仇となってしまった。しかも無精ひげ、どこから見ても不法外国人労働者だった。お金持ちの韓国人旅行一座とあっさりラインを分けられ、誰もいないカウンターに誘導された。
引きつったスマイルをマニュアル通りに見せ、これまたマニュアル通りのQ&A。しかしそれだけでは納得のいかない審査員は執拗な質問責め。熱く語るが何いてるのかさっぱり?徐々にエキサイトしはじめた彼はトラベラーズチェック、帰りのチケットまで提出しろと言いだした。
怪訝そうにまだ疑っている様子。その時、先ほどの韓国人旅行一座が「早くしろ」と怒りはじめ、人の波がドッと押し寄せてきた。焦った審査員もうやむやのうちパスしてくれた。まだ疑いの眼差しを送っていたが、入ってしまえばこっちのもの。ありがとう韓国人旅行一座!君たちのパワーは伊達じゃないぞ。そんなパワーに押されたまま無事ロンドンに入国。
荷物を受け取り呆然と立ち尽くしてしまう。ガラーンとしたフロア、さっきまで大騒ぎをしていた韓国人旅行一座もいつのまにかいなくなり、目の前を太った黒人のおじさんがカートを押しながら横切っている。ああぁ、ここはもう外国なんだ。急に孤独感が襲ってきた。
「なんで来ちゃたんだろー」
そもそもの動機が不純だっただけに崩れるのも早い、白目をむいたイノシシがポカッと叩かれて我に返る感覚。しかしHISで買ったクローズチケット。帰りの便はローマの空港。是が非でもイタリアまで行かないと日本には帰れない、しかも1ヶ月後。ああああああぁ、なんてことを〜〜〜!

僕のヨーロッパ放浪記はこんな緊迫感溢れるスタートだった。
ロンドン・アールコート駅前
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