<連載コラム第4回>


(7)東広島市西条町御薗字 午前4時00分着 午前4時20分発

もう少し疲れをとらなければと思いながらも、先の道のりを考えるとじっとしてはいられない。
リュックを背負ってみるとやけに重さを感じる。さっき歩いている時はちゃんとフィットしていた感じで違和感はなかったのだが・・・。
寝起きで眠いが、ともかく足を動かす。

(8)東広島市西条町大宮 午前5時23分着 午前5時40分

この時間、明るくなり始め、眠気と薄明かりの中を歩いているのとでボーっとしている。自分でも何を考えながら歩いているのか、解らない。
ペースは間違いなく落ちてきている。時速4kmぐらいだろう。
そのせいで、まわりに少しでも珍しいものがあると右や左にくねくねと交差して歩くようになった。
ちょっと休む度に地図で位置確認をし、どれぐらいの距離を歩いたかを測ってしまうようにもなった。

(9)竹原市田万里町 午前7時26分着 午前8時00分

ここまで歩いて来た道は下りではあったが、やはり下駄の尾が当たる所と足の裏が痛い。
尾の部分の対策としては差し込む位置を少し後ろ側にずらし、足の裏については下駄を引き摺るように滑らす。かなり意識的に足をかばいだしている。
練習なんてしなければよかったと反省をしたが、もう遅い。あれで下駄でも大丈夫だ、と早合点の結論を下したのだった。それも、なぜ前日なんかにしたのだろう?ギリギリだ。
悔やみつつ歩く。

(10)竹原市東野町湯坂 午前9時35分 午前10時35分

国道脇の食堂の駐車場に置いてある自動販売機の前で休憩。
ジュースの取り過ぎは駄目だと解っているが、冷たいものを飲まずにはいられない。
しかし3本はさすがに多過ぎる。水分を取り過ぎると必ず足がむくみ、身体はだるくなって力が抜ける。これまでの経験で十分解ってはいるのに。
しかし今回の場合、下駄のせいで痛い足がある。どうやら神経がそこに集まって逆に体のだるさをだますことができるようなのだ。肩にずしりと来るはずのリュックの重さをなぜか感じないのが救いである。
これから短い登り(日名内の峠)が待っている。
悪友達と、へばる俺。クルマが時代を語る。

(11)豊田郡本郷町日名内 午前10時50分 午前11時13分

登り切る手前の自動販売機のある駐車場で、声をかける人間がいる。見ると高校の友人達だった。

「あれ、おまえらどうしてここにいるんじゃ?」

そう不思議そうに聞くと、

「オカムラがほんまに歩きょうるか確かめに来たんじゃ」

と俺を取り囲んだ。そういえば学校で、一緒に歩かんか?と話を持ちかけた時、「わしらは見にいっちゃる、車で!」と冗談に言っていたヤツらだった。
ほんとうに来るとは思っていなかったが、ヤツらもヤツらで本当に俺が下駄履いて歩いているとは思わなかったらしく、ひどく感心していた。
しかし、彼らが来た本当の理由はすぐにわかった。広島市内に遊びに行く途中なのだった。
オマエら高校3年生の分際で車を運転して遊んどるとはケシカラン!それも、高2の彼女を乗せて!
いったいコイツらは何をしているんじゃ。それが俺の友人と思うと、怖い怖い。4人乗って来ていた友人らは、写真部のA君を残して、3人で去った。

(12)豊田郡本郷町南方 午前12時10分着 午後12時20分発

置いていかれたA君は俺といっしょに歩くことになった。
しかし本人も少しその気があったらしい。カメラを持っていた。
この頃は、旅にはカメラなどいらないと考えて、自分では持ち歩いていなかった。
「想い出は自分の心の中に残るもの」と信じていた時であり、だから記録としての映像が残っていない時期である。後から思ったのだが、彼がカメラを持参して撮ってくれていなかったらこのコラムのための写真は何も残っていなかったことになる。
A君には感謝している。わずか数枚ではあるが、自分の青春の一コマを思い出させてくれる貴重な記録だ。
今でもありがたく思ってます、A君。

やがて「福山まで48km」という道路標識に出会う。さっそく地図で確認。そして全行程の半分の位置でしかないことを知る。
昨日広島市を出発して丸一日が過ぎてしまっていた。
これでどうみてもあと丸一日はかかることが予測できた。

(13)豊田郡本郷町下北方 午後1時21分着 午後1時50分発

一人旅のつもりだったが、A君に2時間ほどいっしょに歩かれてしまった。
しかし、やはりカメラに自分が下駄で歩く姿を収めてくれたことは何にも代え難い友情と受け止めた。
その後、本郷橋を歩いている姿をカメラに収めたのを最後に、彼はあの広島に遊びに行った帰りの車に乗せられていなくなった。
そしてこの後の画像による記録もなくったてしまったのである。
この頃から少し風も強くなり始め、雲も厚くなりかけていた。
でも、まだ台風(!)の気配なんて感じることはまったくなかったのである。

(14)三原市長谷町萩路 午後2時51分着 午後3時10分発

歩いていると後ろから追い越して行く車の窓から顔を出して「頑張って!」という声をかけられる。
初めの頃は手を振って挨拶を返していたのだが、この頃になると疲れて手を振る気にもなれず「ハイハイ頑張ってますヨ」と小声で会釈をする程度である。
人間、余裕がなくなると周りからの親切も受け入れられなくなり面倒くさくなるらしい。
その頃歩いていた本郷土手は先の方まで見えて、気分的にかなり疲れる場所だった。
視界に見える目標物を定めるのだけれど、それがなかなか近づいて来ない。
一生懸命歩いているだけに、これは結構つらい。目標達成に普通以上の労力がかかっていると感じてしまう。

(次号に続く)

岡村 博文
E-mail: okamura@fuchu.or.jp
Website: http://www.fuchu.or.jp/~okamura/

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