<連載コラム第3回>


(0)スタート 広島駅を午後1時20分に出発。

さすがに人通りが多い。恥ずかしさで下駄を履けない・・。(う〜ん、あの頃は少年だった)
国道2号線に出るのに近道をと考え、あっちこっちと細い道を南下する。しかし、結局は広い道を歩いた方が早かったかもしれない。途中、人通りの少ないところで下駄に履き替える。そして古いGパンのひざ下をちょん切ったバミューダ(と当時呼んでいた)に着替えた。旅姿に変身である。

(1)南区2号線 午後2時20分着 2時30分発

さっきから歩いているのだがなかなか2号線に出ない。ふと気がつけば猿候川の仁保橋近くにいた。いたって元気ではあるが、先のことを考えて少し休むことにする。いつものことだけれど今回の旅も細かい計画はまるでなし。どこで休むか、どれくらい休むかも全然決めていない。この計画性のなさにこそ自由あり。そう感じるのである。

(2)海田町交差点 午後3時25分着 3時45分発

暑い。さすがに夏の陽射しはきつい。
国道2号線と31号線の交差点近くの店でパン3個とジュース1本、それに凍らせた氷ジュースを買った。店の中のテレビでは高校野球の中継をやっている。本気で見入っているおじさん。夏そのものの光景だ。

(3)安芸区中野東 午後5時10分着 5時40分発

国道2号線の瀬野川は車も多く、排気ガスで喉が痛い。右側の歩道を歩くが段があり、下駄を履いているとちょっとの高さでコロンとなってしまう。この時間はまだすれ違う人が結構多く、下駄履きで歩くこの姿への視線を感じる。

下駄で歩く。ただ、ひたすら。
(4)安芸区一貫田 午後6時40分着 7時00分発

ここから登りに入る。自転車で何度か走っているがキツイ登りではない。ただ長くはある。
ここまで既に6時間が過ぎようとしている。30kmは歩いていないといけないはずだが、まだ18〜19km。なぜこんなに時間がかかるのだろう。これから夕暮れで暗くなる。山坂で外灯も少ない。しかし疲れはまだあまり感じない。歩くのみだ。

(5)東広島市入野 午後8時18分着 9時40分発

もうすっかり暗くなった。山陽本線を横目に見つつ何度か線路と交差しながら登りを歩く。急なカーブでは最短距離を歩くためインコーナを攻めることにした。そのぶん坂道を一気に登ることになるわけだが、自転車と違って足への負担はかからない。
この坂道の距離、そして歩いた時間から見当をつけると前の地点から6kmは来ている。下駄の尾が足に当たる部分が少し痛い。足全体の疲れは、まあこんなもんであろう。

(6)東広島市西条町寺家 午前00時00分着 午前2時45分発

さっきから約2時間歩いた。八本松の下りは大したことはなかったが、どうも足が痛くなってきた。突っ張るというのではない。登りから下りになった時点で足の裏が磨り減る感じがし始めたのだ。歩くという行為の中で初めて感じる種類の痛みである。不安になりながらも「まだまだこれからヨ」と自分に言い聞かせる。
そう言えばもう2日目に入って午前0時。よし、ひとつ大休憩を取ろう。ちょうど食料品店があり(もちろん閉まっているが)、その店の前に長いベンチがあったのでそこに腰をおろした。
そのまま横になり寝る。この旅、いくら自由とはいえ、睡眠をとりつつゆっくり歩くことになるとは予想していなかった。「ちょっと休むぞ」と言いつつ目をつむる。国道2号線は夜通し車が走っているからここはかなりうるさいはずなのだが、疲れていてそれもまったく気にならい。
ハッと目が覚める(いつの間にか完全に眠り込んでいた)。目覚まし時計ではない。ただすっと目が覚めた。
ちょっと腹ごしらえ。パンを口に持っていく。

(次号に続く)

岡村 博文
E-mail: okamura@fuchu.or.jp
Website: http://www.fuchu.or.jp/~okamura/

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