ワルシャワも8月が近づいた。輝かしい黄金の季節の到来である。

この街にもいろいろな青春があり、様々な若者像が夏の風景に映じているようだ。

今回、勝さんは、これらの「人の風景」を書いてきた。

今日本が若者に関わる多くの問題を抱えているように、

この国にも入口と出口を喪失してしまった世代が生まれつつあることが見えてくる。


第三回:「若者の風景」


  夏の夕方、ワルシャワの街を歩く。若い人たちが、誇らしげに道を行く。今を楽しまなければ損だとばかりに、道を行く。
 そんな彼らの横を、戸惑いがちの表情の若者が通り過ぎる。自分の今いる場所さえ見失って、どの道に入ればいいのか分からずに、うろうろしている。
 そして通りの向こうでは、別の集団が破裂しそうな若いエネルギーをもてあましながら、ビールを片手にたむろっている。
 夏の太陽を一緒に浴びてはいても、彼らの表情は同じではない。ポーランドの若者の横顔を、少しだけ眺めてみよう。

 ポーランドの女性の顔立ちはなかなか美しい、と僕は思う。いいことだ。どうせ眺めるなら、個性的で美しい顔のほうがいい。けれど、彼女たちのファッションはさほど個性的ではない。互いによく似ている。
 非常に多くの若い女性が底の厚い靴やサンダルを履き、身体にぴったり密着して、へそと肩の露出した服を着ている。その肩には、必ずブラジャーの肩紐が出ている。いわゆる、トレンドという奴なのだろうか。

 若い男の子の間でも、いくつかの典型的なファッションをよく目にする。目立つのは(ノーマルな格好よりも、奇抜な格好のほうが僕の記憶に残りやすいためだろうが)、坊主頭、ピアス、ずり下げたジーンズなどだ。
 また、最近のワルシャワで男女を問わずよく見かけるのが、イレズミである。どうにもガラが悪く見えて仕方がない。

 ポーランドの若い人たちの間に見られる現象は、かつてフランスやアメリカや日本の若者に見られた、そして現在も見られる現象と変わらない。彼らに影響を与えているのはその国独自の背景ではなく、今や完全に国境を越えた製品やファッションやファーストフード、映画、音楽などだ。
 いいとか悪いとかの問題ではなく、それが現実なのだ。

 世界中で流されている日本製のアニメーションは、ポーランドでも大人気だ。こちらの中学生や高校生は、ピカチューや宮崎アニメのことをうれしそうに話す。
 また、世間から隔離した数人の若い男女の生活を隠しカメラで捉える、というかなり低俗で悪趣味な番組が、多くの国々でここ数年高い視聴率を稼ぎ出しているように、ここポーランドでも大流行だ。

 もちろん、子どもと一緒になってこの手の番組を喜ぶ親も大勢いる。けれど、苦々しく思っている親も多い。
 親は共産政権のもとで厳しい時代を生き抜いてきた世代だ。実に長い間、民主化と自由化を求めて戦ってきた。そして、12年前にやっと扉は開かれた。そのとき、それは自由への扉に見えたに違いない。豊かさへ通じる扉に見えたに違いない。しかし・・・。

 物と情報が一挙に流れ込み、今の若者はその環境の中で育ってきた。厳しい時代を知らない。親は、やっと手に入れた自由を自分の子供にも満喫させたいとは思うけれど、子供はどんどん派手になっていくし、要求はエスカレートしていく。
 自分の子供時代を思い出しては、本当にこれでいいのだろうかと戸惑いながら子供に接している親たちの姿が見える。

 ポーランド人は自国の文化やアイデンティティーを非常に誇りに思っている。しかし、十代の若者の言うアイデンティティーと、彼らの親の言うアイデンティティーは、もはや共通ではない。世代間格差は広がる一方だ。
 親と若者の間にでき始めた溝。結局のところ、この溝を作ったのは何なのか。これは、避けることのできない宿命なのか。

 実は、戸惑っているのは旧世代に属する親だけではない。若者自身、どうしていいかわからないのだ。あふれる情報とあふれる物。テレビではアメリカ製のドラマや映画が、既存の社会を否定し、親や教師を馬鹿にし、暴力を見せ付ける。
 ある若者は、先のことは考えずに、今を楽しむことに懸命になる。ある若者は、無数の選択肢の中で、打ち込むべきものが見つけられずになんとなく無気力になる。そして、ある若者は自分だけが取り残されたような気になって、将来に希望を見出せず、仲間と自暴自棄になっていく。

 社会を律してきたものが揺らいだとき、若者は旧世代の価値観を否定する。日本の多くの若者のように。
 今、彼らに必要なものは何なのだろうか。


勝 瞬ノ介
E-mail: gustav3@excite.co.jp
Website「ワルシャワの風」: http://www.geocities.co.jp/WallStreet/5223/
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